Snow Soul Records

最近Youtubeネタのサルベージばかり。

イビサその3

2007.06.02

category : design

Can_you_feel_anything_when_I_do_this.jpg


子供の頃、SF小説が好きで、当時350円程で売っていたハヤカワの文庫本だけは、小遣いではなく親に買ってもらっていた。おそらくマンガではないという程度で親も安心していたのだろう。実際にはマンガより余程不道徳であったり、過激な暴力描写であったりするわけだが。で、上の写真であるが、当時買ったSF短編集『Can You Feel Anything When I Do This ? 』だ。邦題は『こうすると感じるかい?』(笑)。タイトルからしてナニだが、さすがにハヤカワから出版された際には『残酷な方程式』というタイトルになっていた。そちらの表紙をアップしたかったのだが、なにしろ自分の持っている本はボロボロで、ネットでも10年以上前に絶版になっているので見つからなかった。著者の名はRobert Sheckley。


ne3_8821.jpgSheckley_interview2004.jpg


NY出身の小説家で、SFのみならず、様々なジャンルを手がけ、短編の名手といわれた。ひねくれた奇妙な味わいの作風を得意とし、映画化された作品もある。『フリージャック』という映画で、ミック・ジャガーが出てたような。で、この『こうすると感じるかい?』も奇妙な話がたくさん詰まった短編集なんだが、とにかくこの本が大好きで、何度読み返したかわからない。そのうち表紙も破れてしまった。特にその中でも好きな一編で『Pas De Trois of the Chef and the Waiter and the Customer 』という作品がある。邦題は『シェフとウェイターと客とパ・ド・トロワ』。こんな話だ。


舞台は1971年のイビサ島。


短編は3部構成になっていて、第一部は島で『グリーン・ジェイド・ムーン』というインドネシア料理のレストランを営んでいる、画家志望のシェフ。第二部は、その店でウェイターとして働く、元船乗りで音楽好きの、マルタ人の美しい少年。第三部は、作家志望で妻とともに島に渡ってきた客の男。この3人の男がそれぞれ神に自分の犯した罪を独白する形式で物語は進む。第一部のシェフの男は、自分の作るオランダ風に味付けしなおしたインドネシア料理に自信を持っているが、島にあるロブスター料理を出す『ファニートのレストラン』やパエリヤを出す『プーント』に客を取られて、あまり裕福になれない。そこで週に5日程やってくる客の男の味覚を研究し、自分の店に少しでも多く来てもらえるように料理を変えてゆく。ピーナッツソースの量を倍にして味付けを濃くし、あまり手を付けない野菜の代わりに肉を増やしたり。当然のことながら客の男はどんどん太ってゆく。それでもシェフは手を緩めない。さらにオイルを増やし、客の男を自分の料理の虜にしてゆき、客の男は吐き気を催すような醜悪な体に変貌する。おかげで、ただでさえ客足の少ない店には誰も寄り付かなくなる。そしてある時、シェフは自分が取り返しのつかないことをしていることに気づく。シェフは、男を自分の料理の虜にすることで、殺人を犯そうとしていたことに。明らかに巨大化した男は長生きできるはずがなかったからだ。そしてある晩、太りすぎて自分で歩くこともままならない状態で店に入ってきた男にシェフは言う。『今日は閉店です。』『なぜだ?』『肉がないんです。』『肉の代わりにミートボールにしてくれ。』『ミートボールは腐ってます!』『なんでもいい!あんたのライスターファルが食べたいんだ!!』男は涙を流しながら叫ぶ。『だったらオランダにでも行け!!』シェフは鍋を蹴飛ばし店を飛び出し、そのままローマ行きの飛行機に乗る。


第二部はマルタ人の美しい少年ウェイター。少年は『グリーン・ジェイド・ムーン』で皿を洗ったり、給仕をしている。金を稼ぐため以上に、元々音楽好きであった少年は、店に置かれた高級なオーディオに魅かれたからだ。彼は音楽に無知なシェフの代わりに、自分の好きな音楽を店で流している。そのうちに、毎週のようにやってくる客の男が、音楽好きであることに気づく。男はジャズが好きで、ウェイターの少年のが選ぶレコードによって食べっぷりが違うのだ。デューク・エリントンをかけると、男は上機嫌になり、この店のけっして美味しくはない料理をかきこみ、バードをかけると、不機嫌になり、料理に伸びる手は遅くなる。客の男は明らかに料理を目当てに店に通っているのではなく、少年の選ぶレコードのプログラムに魅せられてた。でなければ、香辛料がききすぎの、どれも同じ味しかしないシェフの作る料理など食べに通うはずがなかったからだ。少年は、この最高の聴き手の好みを探り、様々な選曲プログラムを試すようになる。少年は男を選曲の虜にし、そして男はシェフの料理のせいで、次第に恐ろしいまでに太ってゆく。それでも少年は手を緩めず、男の食欲を音楽で支配し続ける。だが、ある晩に少年は自分の犯している罪に気づく。明らかに客の男は太りすぎ、命を縮めていた。そしてその男の姿のせいで、店には客が一人も寄り付かなくなっていた。ある晩、少年はかけていたレコードを止め、男に言う。『ヴォーン・モンローはもうだめです。』『なぜだ?・・・だったらグレン・ミラーをちょっとだけ・・・』『だめです。』『トミー・ドーシーは?』『問題になりませんね。』男は膨らんだ頬をプルプルと震わせながら叫ぶ。『なら、エリントンは!お前はエリントンが好きじゃないか!!MJQでもいい!なんでもいいから君の好きなものをかけてくれ!!』『あなたは聴きすぎです。私はもう音楽に興味ありません』と少年は静かに言うと、真空管を粉々に壊し、唖然とするシェフと客を尻目に店を出て、そのままマルセイユ行きの船に乗る。


第三部は、作家志望の男。男は連れてきた妻が料理嫌いなので、毎晩外食している。島にいくつかあるレストランで食事をとるのだが、その中のインドネシア料理店のウェイターの少年に興味を持つ。最初はとても優雅で、機敏に料理を運んだり、レコードをかえたりと、くるくると店の中を動き回る少年を見るのが楽しいと感じる程度であったのだが、そのうちに男は、ほっそりとした頬や、黒くて太い眉、美しく細い背中や、日に焼けた肌、丸くて小さな尻に興味を持っていることに気づく。男は戸惑いながらも、店に通うことをやめられない。少年も次第に男の特別な感情に気づいているかのように、男に意味ありげな目配せをしたり、時には暇な折に男の傍に立ち、触ってごらんといわんばかりに片手をテーブルの上に置いたりした。男は毎晩、少年とベッドに入る夢を見ながら、次の晩をいらいらと待った。男の妻はアメリカに帰ってしまった。男が、見るもおぞましいほど太っていたからだ。気違いじみた夜は毎晩繰り返されたが、あるときに男は鏡に映った姿を見て、自分が取り返しのつかないことをしていることに気づく。店に来る客は自分しかいなかった。もう何ヶ月も。それは男の醜い姿のせいだった。ある晩、男は食事を途中でやめて店を出て、そして島を離れメキシコに向かう。


長くなってしまったが、こんな話だ。


それぞれ独白する男たちの妄想が交差し、神に懺悔する。誰が真実を語っているかということは問題ではなく、そもそも人間は妄想と憶測でしか生きていない・・・かどうかは知らないが、ものすごく好きな物語だ。


でも、何より子供の頃、魅力を感じていたのは、このインドネシア料理店で出している『ライスターファル』という料理だった。


そんなわけで、いつか長期休暇が取れたらイビサでライスターファルを食べて、ゆるゆると酒を飲んで昼寝がしてみたい。クラブのおねーさんとも仲良くなりたいけども。




コメント

すっすばらしいっ。『シェフとウェイターと客とパ・ド・トロワ』、物凄く好みです。
何とか短編集丸ごと読みたいですね。
再評価の機運が高まって再版なんてことにはならんですかね?

それと表紙の絵の斬新さといったら・・・。時代の先行き過ぎ。

「残酷な方程式」って邦題もなかなかじゃないですか?
ハヤカワ、グッドジョブ。

2007.06.02  dsk  編集

ちょっと調べてたら、ロバート・シェイクリィの評価は高まってるみたいで、ハヤカワが愛蔵版をリリース予定みたい。この話、映画化したら絶対いい映画になると思うんだけどなぁ。
ちょっとハル・ハートリーみたいなオフな感じで。真空管が粉々に砕ける映像なんて、映画にとても相応しいと思うんだけどね。おそらくシェイクリィ自体がヒッピームーブメントにシンパシーを持っていて、短編の中には、スペインの田舎をマリファナをふかしながらドライブしていると、サイケの神様に出会って啓示を受け、いままで高級レストランでまずいメシを出されても文句一つ言えなかった主人公が、スープをテーブルに少しだけぶちまけてみる・・・実はその神は、ただのヒッチハイクの老人ルンペンだったんだけど。。みたいな話もある。

2007.06.02  masa  編集

僕も読んでてハルハートリーを想起してましたが・・・・。

>その神は、ただのヒッチハイクの老人ルンペンだったんだけど

これを読んで確信しました。彼の作品でもこういうのがありました。
間違いなく強い影響受けてるんだと思います。
同じニューヨーク出身だし。

ハルハートリーも最近全世界的に無視され続けて旧作のDVD化は
おろか新作もまともに配給されない状況


http://www.apple.com/trailers/magnolia/faygrim/trailer/

これは何とかヒットしてほしい。

2007.06.03  dsk  編集

絶対ジャケ買いしない本だけど、面白いね!
3つの話はつながってるのかと思ったけど、そうではないのね。
原題も好き。

しかし、小学生でこれを読むって・・・

2007.06.04  AJ  編集

どうも、ハル・ハートリーは制作費を抑えて、一人二人有名俳優を起用して、DVDやネットを媒体に回収してゆく方法に活路を見出そうとしているみたいだね。どこまでも反体制的な奴。(笑
ジュラシックパークの人が出てますな。見たいな、これ。

ハヤカワ版の表紙は宇宙飛行士が宇宙を漂っている、いかにもSFな表紙。なのに、内容は、そんな普通のハードSFなんて一篇もない(笑)
頭脳を持ち、言葉を喋る掃除機兼マッサージ器が、買主の女性に恋をして、なんだかんだ言いながら女性をあちこち触りまくって、しまいには怒られてぶっ壊される話とか・・・
当時から歪んでたんスよ。(笑

2007.06.05  masa  編集

あれ・・・・この話知ってる。。。
って前〜に借りたのか、表紙のない本を

「料理人」もここからヒント貰ったのかもね
少し似てる

最近読んで面白かった本は・・・
特にないなぁ。。。
結構あれこれ読んではいるんだけど
"泣けた”って帯に書いてある本を読んでもちっとも泣けないし(笑

でも陣内の弾き語りには少しなけた今日この頃。


ふと思ったんだけど
”海辺”を本にして出してみたらどうだろう?
ネット小説に投稿してみるとか。

2007.06.06  Nr  編集

随分前に貸したかな。
陣内って・・・まさか、披露宴の話ですか・・・

「海辺」のノベライズはちょっと難しいかな。っていうかたぶん文章にするとつまらなくなってしまうかも。
“新作”は、まずノベライズから進めていこうかな。

2007.06.07  masa  編集

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